TCH是正咬合療法 

 

 1日に、上下の歯が触れずにいると生活できない時間は、たった20分以内と考えられています。それは、食事・嚥下(ツバを呑む瞬間)・発音(日本語では、訓練で当たらなくても発音出来る)の時間です。それ以外の時間は、当たらなくても生活に支障はありません。1日に20分を越えて、上下の歯が触れたり、強く噛んでいることをTCH(Tooth Contacting Habit)と言います。

  顎関節や口腔内のトラブルに繋がらないTCHであれば問題にはなりませんが、トラブルがあったり、トラブルを予防する必要がある場合は、TCHコントロールを修得する必要があります。

 「歯界展望」11月号、12月号に連載特集として、「TCH是正咬合療法」が掲載されました。
  

  「TCH是正咬合療法」は、木野元東京医科歯科大学准教授とサイトウ歯科との共同でつくりあげた治療法です。TCH是正咬合療法には、下記のような特徴があります。

 TCH是正咬合療法に関連する内容は、医療関係の方については、「歯科医院で取り組むTCHコントロール入門」をお勧めします。この書籍は、「TCH是正咬合療法」という言葉が生まれる前に出版されたため、「TCH是正咬合療法」という言葉は出てきませんが、「TCH是正咬合療法」の概念は把握できます。 

 ここからは、齋藤先生が、患者さん向けに「TCH是正咬合療法」を説明します。参考にして下さい。(広報:渡邉)

 私たちの歯は、現在の歯科医療や日常の管理の範囲内で、多くの場合、60〜70歳までは困ることなく使用できるのではないでしょうか。しかし、100歳まで生きる(生きてしまう)時代になりつつある現在、「100歳まで自分の歯をのこす」ことが求められるようになってきました。ご自分の歯を、さらに+30年長持ちさせるためには、既存の歯科治療法や口腔内管理では無理なのではないでしょうか。別次元のアプローチが必要です。 

100歳まで自分の歯をのこすコツ 1: 3ヶ月毎にTCHレベルのチェックをうける。

 食事の時には、顎の関節が軸となって、筋肉の力を利用して、下顎(したあご)を動かします。食物や飲料を呑みこむ時は、唇を閉じ、上下の歯をかみ合わせて、ゴクンとします。気合を入れる時には、奥歯をグッと噛み締めます。このような行動は習慣化し、意識せずに行っています。同様に、多くの人が、日常的に上下の歯を当てていること(TCH)を無意識に行っています。

 TCHはあっても構わないのですが、TCHによって顎関節や歯に掛ける力が許容量を越えてしまうと、顎関節症が現われたり、虫歯・歯周病の進行を加速させます。
  本人も自覚できていないTCHは、いつも同じレベルというわけではありません。身内の不幸・新しい職場に就職した時・災害に見舞われた時・仕事が忙しい時などには、TCHのレベルは非常に高くなります。当院の経験では、3ヶ月以内に発見できれば、多くの場合、TCHコントロールの再指導で大事に至らないように出来ます。このように、口腔内の健康を維持するためには、定期的なTCHの管理が必要となります。

 私たちは、100歳まで生きる、生きてしまう可能性のある時代に生きています。何でも食べられるという健康の源を維持するためには、「100歳まで自分の歯を残す」覚悟が必要となります。

 ところで、8020運動をご存知でしょうか、政府・歯科医師会が推進している、80歳で20本の歯を残すことを努力目標とした運動です。今まで問題にされることのなかったTCHを考慮した時、100歳まで自分の歯で何でも食べられるためには、100歳で28本の歯を残すことを目標とすべきです。この場合の28本は、途中の歯が欠けることなく並んでいると言う意味で、プラスかみ合っている親知らずが残っていれば、更にgoodです。

 針金を切るペンチを例にするとわかりやすいのですが、針金を切る時に一番力が入るのは、刃の付け根部分です。これと同じように、TCHという癖があると、長い人生の間に、一番力の掛かる最後臼歯の+4本(上下の第二大臼歯)が最初に失われてゆき、次に最後臼歯となる第一大臼歯も失われていく運命にあります。この一連の崩壊を防ぐためには、20本ではダメで、28本を維持する必要があります。
 
 100歳で28本を現実とするためには、8020を目標とする現在の歯科治療法や口腔内管理法ではダメです。新しい治療法・口腔管理法が必要となります。その一つに、今まで歯科医も考えたことのないTCHを定期的に管理し、必要に応じてTCHコントロールを行うことが該当します。

100歳まで自分の歯を残すコツ 2: 虫歯は、歯髄処置(神経を抜く)をしないC2の段階までで維持する。

 数十年に亘り、3ヶ月毎の「ペリオクリーニング」に来院していただいた多くの会員から得られた結果ですが、神経を取る治療(歯髄処置)に至らない歯が、100歳まで残る可能性が非常に高くなります。100歳までもたせようとしたならば、神経を取らなければいけない段階(C3)にしない事です。

 もちろん、神経を取った歯でも、長く持たせることを目標とした技術力のある歯科医の治療を受ければ、神経を取っていない歯と同様に長持ちするはずです。
  一般的に、神経を取ってしまうと、神経を取らない歯に比べて、寿命が短縮される可能性は非常に高くなります。その主な理由は、歯髄処置が上手くいかなくて、歯根の先に根尖病巣を作ってしまう場合と歯根部分にヒビが入ったり破折した場合です。前者は場合によっては再治療が可能ですが、後者については、接着剤を使用して持たせることができると言う先生もおられますが、100歳まで自分の歯を使う視点に立つと応急処置にすぎません。ここで、ヒビや破折に大きく加担するのがTCHです。神経を取り薄くなってしまった歯根部に無理な力が掛かり続けば、ヒビが入っても不思議はありません。、
 歯根部が薄くなるほどヒビや破折し易くなることは当たり前の話ですが、歯髄処置のために顕微鏡(マイクロスコープ)を用いて歯根の根尖部まで直視する治療法では、直視するために、歯根の上部を相当量削ることとなり、ヒビの入る可能性はさらに高くなります。

 100歳まで自分の歯を使いたいと考えた時、現在推奨されている様々な治療法や」口腔内ケアに安易に手を出さないことです。例えば、歯を白くするために薬品処理したり、歯みがき粉をつけて強く磨いたり、歯間ブラシの必要でない部分をゴシゴシ磨いて、歯肉を人工的に下げるようなことはすべきではありません。基本は、虫歯や歯周病の原因となるショ糖摂取を控え、柔らかなプラークを取り残しがないようにブラッシングする事です。
  虫歯にしないことが大切ですが、虫歯にしてしまった場合には、虫歯が歯髄に至らない象牙質に留まった段階(C2)で、技術力のある歯科医の治療を受け、それ以上進行させないことです。もちろん、ここでもTCHコントロールは必須となります。

100歳まで自分の歯を残すコツ 3: 歯周病は、歯周ポケットの深さを2mmまでに維持する。

 歯周病は、歯と歯肉の溝にプラーク(歯垢)が溜まることで始まります。健康な歯肉では、0,5〜1mmの生理的歯肉溝があり、それ以上の深さになった病的な歯周ポケットとは区別されていますが、話を簡単にするために、健康な歯肉では2mm以内の歯周ポケットがあると考えてください。この深さであれば、適切なブラッシングだけで管理可能です。この歯周ポケットに、プラークが溜まり歯肉に炎症が起こると、歯肉が腫れるために深さが3〜4mmの歯周ポケットになります。

 3〜4mmの深さに溜まったプラークは、ブラッシングだけでは適切な清掃が出来ませんから、さらに5mm以上へと歯周ポケットは深くなってゆきます。深くなった歯周ポケットに棲む菌の種類も変わってきますが、問題になるのは、歯周ポケット内の炎症で歯を支えている骨(歯槽骨)が次第に溶けてゆくことです。

 歯槽骨が次第に失われていくことに拍車をかけるのが、TCHです。上下の歯を当てていることで、歯を揺する力が掛かり続けます。3ヶ月毎のペリオクリーニングの際に、歯の動揺が前回よりも大きいと診断した場合、再度TCHコントロールする事で、動揺が減り大事に至ることを未然に防いでいます。

 健康な歯肉を維持していても、加齢と共に少しづつ歯槽骨は減っていくと言われていますが、少なくとも歯周ポケットを2mm以内に維持出来ていれば、病的に歯槽骨が減ることは防止できます。

100歳まで自分の歯を残すコツ 4: 歯科医の手作りで、安定した口腔内環境を崩さない歯科治療を受ける。

 最新の医療が最高の医療と考えておられる人が多いと思います。本当でしょうか。最新医療は、数十年の風雪に耐えた技術ではありません。一度削ってしまったら元に戻せない大切な歯を、最新医療に掛けてしまうのは大冒険です。
  先ほど紹介したマイクロスコープを使用した歯髄治療の場合、治療の難しい大臼歯では、分岐した歯根の入り口の厚さが3mm前後で、入り口から約5mm先を顕微鏡で直視する必要があります。曲がった歯根の場合は特に、入り口部分を大きく削るために大変に薄くなります。1回に約50kgの力で、1日に1000回以上咬むことを考えた時、健全な天然の歯でも破折する可能性があるのですから、こうした治療を受けた歯が100歳まで使用できるかは大変疑問です。統計によると、「抜歯にいたる主な原因」の11%が破折です。(8020推進財団・永久歯の抜歯原因調査(2005年)より)

 奈良・飛鳥時代に立てられた木造建築が、千年のときを越えて現存しているのは、匠の技です。歯科医も職人です。数万〜数十万年の時を経て獲得した天然の歯を超えたものを作れない現在、いかにトラブルになった天然の歯を修復して長持ちさせるかは匠の技です。このことを現実にする最善の方法は、歯科医という職人の手作りです。

 歯を削られた後、削られる前と変わらない状態の仮歯が装着されなければいけません。仮歯を入れてもらえなかったり、シックリこない仮歯を装着されると、なじめず、患部に舌を頻繁に当てたり、患部の所で頻繁に噛む行動が起こり、咬合違和感や顎関節症の発症する可能性があります。こうした症状を引き起こさないためには、違和感を感じさせない仮歯をリアルタイムで手作りする必要があります。

 現在の安定した咬合環境を崩さない歯の治療が最重要です。そのためには、必要最小限の歯科処置を行い、口腔内環境に適応した既存の形態をコピーすることが安全策です。その際でも、TCHレベルが高いと咬合違和感や顎関節症を発症してしまいますから、TCHコントロールは必須事項です。仮歯や最終補綴物装着後、治療イスから降りた時に、何ら違和感を感じないレベルの治療を受ける必要があります。咬合違和感で悩まされ始めてしまうと、仕事も手につかないほどの苦しみになります。

100歳まで自分の歯を残すコツ 5: 100歳まで長生きするようになると、体内に蓄積される金属も無視できません。

 今まで大丈夫だったのに、今年から杉花粉症が現われた話はよく聞きます。アレルギーは、その人の持つ受容能力を越えてしまった特定物質に反応して、体に現われると考えられています。今までなかったアレルギー症状が、突然現われても不思議はないそうです。100歳まで長生きする時代、長生き分だけ体内に蓄積される金属量は増えます。

 一度でも歯の治療を受けたことのある人の口腔内には金属が入っています。つめものやかぶせ物は当然のことですが、接着材などにも含まれています。この他に、金属アレルギーではないのですが、歯科用の複合素材(レジン)にアレルギー反応を示す人も現われています。ピアスやネックレスは止める事ができますが、口の中に使用されたものは簡単には取り外し出来ません。

 金・銀・白金・水銀・パラジウム・銅・亜鉛・インジウム・イリジウム・鉄・アルミニウム・コバルト・スズ・マンガン・ニッケル・チタチウム・ジルコニウムと多種類の金属元素が口腔内に使用されています。歯科用金属として使用されているものは、こうした金属元素の合金が一般的に使用されています。
  皮膚は汗をかくことで、ペンダントなどの金属がイオン化し皮膚から体内に取り込まれますが、口の中は、常に唾液があり、皮膚より体内に吸収されやすい粘膜で出来ているため、大変に口腔内使用された金属が体内に取り込まれ易い環境です。
  金属を使用する必要のある場合には、現段階でアレルギー症状の現れない金属元素組成の歯科用金属を使用する必要があります。ここで、口の中に使用する材料を同一の歯科用金属で統一すべきです。違う歯科用金属が口の中にあると、金属間を唾液を介した電流が流れ、イオン化傾向の高い金属元素が流出すると考えられています。

 レジンなどでは考えられない薄さでありながら必要強度が保たれる金属使用で、治療用途によってはエナメル質の削除量を最小限にすることが可能です。近未来まで、口腔内に金属を使用することはなくならないはずですから、体内に蓄積される金属のことも考慮する必要があります。

   
(つづく)

 

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詳しい説明と購入法
 

 

 

 

 

 

 

 

この会は、木野孔司准教授をリーダーとした東京医科歯科大学の顎関節治療部で研究・研修した歯科医師有志と齋藤博(サイトウ歯科)によって、TCHを社会に広める目的で、2010年に設立されました。過去6年の社会活動で、TCHが社会的に認知されるようになりました。木野先生が東京医科歯科大学を定年退職されたため、事務局の齋藤博(サイトウ歯科)が、この会を引き継ぎ、TCHを社会に広める活動を展開してゆきます。